Share

第1章 30 傷病者の町『クリーク』 7

last update Dernière mise à jour: 2025-07-26 22:34:53

「それではあなた達にお願いします。怪我をしている人達の包帯を外して、傷口を綺麗に洗ってあげて下さい。今向こうでスヴェンとリーシャが荷物を開封してくれていますが、あの中にガラス瓶に入った軟膏があります。その軟膏を傷口に塗ってあげて下さい」

私はスヴェンとリーシャを指し示した。

「はい、分かりました」

ユダが代表して返事をする。

「それでは皆さん、どうかよろしくお願いします」

私の言葉にその場にいた全員が頷くと、荷解きをしているスヴェンとリーシャの元へ向かっていった。

そんな彼等を見つめながら呟いた。

「フフ……きっと、みんなあの薬を試してみれば驚くでしょうね……」

****

 今回『クリーク』の傷病者達の為に私が用意してきた荷物は医療用の清潔なシーツや包帯だけでは無い。

一番この町に持ってきたかった物……それはこの世界で尤も希少価値の高い、いわゆる万能薬と呼ばれる【エリクサー】だった。

【エリクサー】を塗れば、どんなに酷い怪我や火傷でもたちどころに治すことが出来る。

尤も死者に使用しても生き返らせることは出来ないし、損失してしまった身体の部位を元通りにすることも出来ないが、それでも魔法のような薬であることに違いは無かった。

この世界は文明や文化は日本人として生きていた頃の世界に比べると、遥かに劣っている。

その代わり、驚くべきことに『魔法』と『錬金術』というものが存在しているのだ。

しかし、『魔法』も『錬金術』も扱える者は非常に稀だった。

そして私はその『錬金術』を使って【エリクサー】を作ることが出来る数少ない錬金術師だったのだ。

……今にして思えば、何故アルベルトが敗戦国の私を妻に所望したのか、それは私が錬金術師であることを知っていたからなのかもしれない。

錬金術師は非常に貴重な存在なので、その力を悪用しようとする人々から狙われる。

その為に私達は『錬金術』を使えることを秘密にしているのだが……アルベルトは知っていた可能性がある。

****

「さて……それでは私も始めないと」

スヴェンたちと一緒に治療の準備を始めたユダたちを見届けると、自分の準備を始めることにした。

私が今持っているメッセンジャーバッグには【エリクサー】を作るための道具が入っているのだ。

この【エリクサー】を作るには、出来るだけ1人になる必要があった。

他の人達に私がこの薬を作れる秘密を知られるわ
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版)   第2章 67 幸せを祈るだけ

     宰相とカチュアが帰った後。病み上がりで精神的疲労も重なったので、今日はベッドで休むことにした。「明日からまた今後のことを考えればいいわね」そして私は眠りに就いた――  誰かの人の気配でふと目が覚めると、リーシャが蝋燭で部屋の明かりを灯している最中だった。「あ、お目覚めですか? クラウディア様。勝手にお部屋に入り、申し訳ございませんでした。ノックをしてもお返事が無かったものですから」リーシャが申し訳なさそうに謝る。「そうだったの? 別に気にしなくていいわよ。それにしても灯りを灯す時間まで私は眠ってしまっていたのね。今は何時なのかしら?」「はい、19時を過ぎた頃です」「え? そんな時間だったの?」確かベッドに入ったのは14時を過ぎていた。それが5時間も眠ってしまっていたなんて……。「昼寝にしては寝過ぎね」苦笑しながらリーシャに話しかけると、彼女は首を振った。「いいえ、クラウディア様は病み上がりなのですからゆっくりお休みになって下さい。それで食事のことですが……お召し上がりになりますか?」「そうね……それでは持ってきてもらおうかしら?」私が早く食事をしなければ、厨房の人達も休めないだろう。「はい、承知いたしました。すぐに伝えて参りますね?」笑顔でリーシャは返事をすると、残っていたランプに灯りを灯すと部屋を出て行った。「フフフ……私ったら厨房の人達のことを気に掛けるなんて、完全に主婦目線じゃない」そしてふと、置き去りにしてしまった葵と倫のことが思い出された。「あの子達……私がいなくなった後、御飯ちゃんと食べているのかしら?」掃除や洗濯は出来ているのだろうか?単身赴任中だった夫は……子供達と暮らしているのだろうか……?もう二度と会えない私の愛する家族。今の私には3人の幸せを祈るしか無かった――****「お待たせいたしました、クラウディア様。お食事をお持ちいたしました」リーシャがワゴンに乗せて料理を運んできた。「ありがとう、リーシャ。……あら?同じ料理のお皿が2つずつあるけど、貴女も私と一緒に食事をするのかしら?」 ワゴンの上に乗っている料理を見て、思わず首を傾げながらリーシャを見た。「いえ、それが実は……」リーシャが言いかけた時――「私がこの部屋に2人分の料理を運ぶように命じたのだ」驚いたことに、アルベル

  • 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版)   第2章 66 意味深な言葉

     そんな噂が流れていたなんて……。「お2人とも、貴重なお話を教えていただき、どうもありがとうございます」にっこり笑って感謝の言葉を述べると、宰相もカチュアも意外そうな表情で私を見た。「い、いえ。礼には及びませんよ」「そうですね。お役に立てて嬉しいです」ひきつった笑いを浮かべる宰相とカチュア。「それでもうお身体の方はよろしいのですか?」カチュアが尋ねてきた。「ええ、そうですね。本日目が覚めたばかりですので、まだ本調子ではありませんが明日にでも城の中を歩けそうです。城の人達に私が健全な姿を見せておかなければなりませんからね」私の頭がおかしいだとか、精神を病んでいる等と噂を立てられればこの先私の立場が悪くなるのは目に見えていた。今回はもう処刑されるわけにはいかない。少しでも自分に不利な状況は取り除いておかなければ。「さようでございますか。クラウディア様の健全な姿を城の者達が見れば皆、安心するでしょうな。では我々はこの辺で退散することにしましょう。あまりクラウディア様を疲れさせるわけにもいきませんからな。明日からはまた元の生活に戻られるのですから」「そうですね。リシュリー様。それに今はあの問題が起きているせいで陛下も大変忙しい時ですから。私達が気を配らなければなりませんしね」 カチュアは意味深な話をするも、私はあえて尋ねないことにした。彼女が私に自分の話を引き出させようとしているのが目に見えて分かったからだ。「……」 私は黙って紅茶を飲んで聞き流すことにした。すると案の定、カチュアはチラチラとこちらを気にしている。「さ、さて。それではそろそろ行くとしよう」「そうですね。リシュリー様」宰相とカチュアが立ち上がったので、私も2人を見送る為に席を立った。「リシュリー宰相、カチュアさん。お忙しい中、お見舞いに来て下さってありがとうございます」「いえ、それでは失礼いたします」「お元気になられて良かったです」宰相とカチュアは交互に挨拶をすると部屋を出て行った。――パタン  2人が出て行き、扉が閉ざされるとため息が漏れてしまった。「ふぅ……疲れたわ……」今回は回帰前に比べて、宰相もカチュアも私に絡んでくる回数が多いように感じる。けれど、それは私とアルベルトの関係が今のところ悪くないせいだろう。「けれど、私に関する悪い噂はまずいわ

  • 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版)   第2章 65 噂の内容

    「陛下に部屋の交換は断られてしまいましたが、やっぱりいつ見ても素敵な部屋ですね」私が2人の向かい側のソファに座ると、早速カチュアが何処か皮肉を込めながら宰相に話しかけてきた。「まぁ陛下が反対したのだから仕方あるまい。しかし、神殿に立派な部屋を用意して貰えたでは無いか?『聖なる巫女』専用の』「はい、そうですね。神官の方たちに良くして貰えて、本当に感謝しかありません」「ああ、全くだ。特にこの間の宴は素晴らしかった。料理も、振舞われた酒も全て一級品だったしな」  リシュリー宰相とカチュアはわざと神殿の話を持ち出して、私の存在を無視するかのように2人だけで盛り上がっている。私は黙ってその様子を見つめていた。私に対する嫌がらせだということは分かっていたからだ。 そこへノックの音が部屋に響きわたり、「失礼します」と言ってマヌエラがワゴンに3人分のお茶を運んできてくれた。「お茶をお持ちいたしました」マヌエラはワゴンを押しながら部屋に入り……宰相とカチュアが2人だけで話をしている姿を見て、眉をしかめた。「ありがとう、マヌエラ」「いいえ」声をかけるとマヌエラは返事をしたものの、明らかにその目には不満が宿っている。「テーブルの上に置いたら、下がっていいわよ」「はい……」マヌエラは私たち前に紅茶を置き、「失礼いたしました」と言って退室した。「……」黙って紅茶に手を伸ばすと、わざとらしく宰相が声をかける。「おや、これは失礼。つい、『聖なる巫女』と話が盛り上がってしまいましたな」「いえ、どうぞお気になさらずに。それで、リシュリー宰相。先程お話されていた私に関する悪い噂とは一体どのようなお話なのでしょうか?」紅茶を一口飲むと、宰相に尋ねた。「ええ、よろしいでしょう。実は今城中でクラウディア様に関しての悪い噂が流れてしまっているのですよ」「そうですか。城中に……ですか?」 私の身体に緊張が走る。回帰前も私に関する悪い話が城中どころか、国民達の間に広がった。その結果、『国を亡ぼす悪妻』と称されて処刑されてしまった。けれどもそれらは全て身に覚えがあり、誇張されてしまったのが原因だった。 しかし、今現在私は自分に関する悪い噂が流れていると言われても、全く心当たりはない。何しろ私はまだこの国に到着したばかりで、さらに5日間もベッドに伏していたのだから

  • 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版)   第2章 64 迷惑な訪問者

     その後、謹慎処分が解かれたリーシャは仕事があるからと言って部屋を出て行った。再び一人になった私はベッドに横たわると、指輪を見つめた。「知らなかったわ……。賢者の石を白くする方法があったなんて……」一体、アルベルトは何処まで賢者の石の秘密を知っているのだろう? それとも彼も私と同様、錬金術師だったのだろうか?「もう……訳が分からないことだらけだわ……」その時、扉の外で何やら騒がしい声が聞こえてきた。『いいえ、なりません。クラウディア様は目が覚めたばかりなのですよ!』マヌエラの声だ。『何を生意気な……! 一介の侍女のくせに、宰相である私の命令が聞けないのか!』『この城で国王陛下の次に権力のある方はクラウディア様です』『まだ妃になってはいないだろう!』言い争いは増々激しくなってくる。これ以上、マヌエラが逆らえば……後で彼女は酷い目に遭うかもしれない。そこでベッドサイドに置いたガウンを羽織ると扉を開けに向かった。扉を開けると、マヌエラと怒りで顔を赤くした宰相。そしてカチュアがいた。まさか……彼女迄連れていたとは思わなかった。「あ! クラウディア様! 動いて大丈夫なのですか!?」マヌエラが驚いた様に声をかけてきた。「ええ、大丈夫よ。ところで何をそんなに騒いでいるのかしら?」すると宰相が答えた。「クラウディア様の目が覚めたという知らせを聞いて早速面会に参りました」「はい、そうです」カチュアは笑みを浮かべて私を見つめている。「分かりました。どうぞお入り下さい」扉を大きく開け放つと、マヌエラが驚きの表情を浮かべた。「クラウディア様、よろしいのですか? まだ体調も回復していらっしゃらないのではありませんか?」「いいえ、大丈夫よ」返事をすると宰相が意味深な台詞を吐いた。「ええ、そうですよ。いつまでもお部屋に閉じこもりきりですと、更に悪い噂が流れるとも限りませんからな。早めにお姿を見せるのが良いでしょう」「え? それはどういう意味なの?」「リシュリー宰相! 口を慎んでください!」するとマヌエラが声を荒げた。ひょっとして何か彼女は知っているのだろうか?「マヌエラ、何か私に関して良くない噂でも流れているの?」「え? あ、あの……それは……」しかし、私の質問に何故かマヌエラは言葉を濁す。すると宰相が声をかけてきた。「その話で

  • 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版)   第2章 63 今更言われても

     扉が閉ざされ、1人になった。 回帰前とは大違いの彼の態度にどう接すればいいのか、もう私には分からなくなっていた。 前々回の生でクラウディアとして生きていた頃はアルベルトから婚約指輪どころか結婚指輪すらはめてもらったことはない。 それを婚約指輪だなんて……。 左手の薬指をじっと見つめた。アルベルトにこの指輪をはめて貰った時、私は日本人だった頃の……自分の結婚式を思い出してしまった。彼は真剣な眼差しで、私に結婚指輪をはめてくれた。「あなた……」 会いたい。子供たちに、そしてあの人に。この世界は私にとって安心出来る居場所が無い。常に周囲を警戒しなければ生きてはいけない。 橋本恵として、生きていた頃は平凡だけど幸せに暮らせていたのに。  ふと、先ほどのアルベルトの言葉が耳に蘇ってくる。『この国や、城の者達を信用できない気持ちは分かるが……せめて俺のことは信用してもらえないか?』 だけど、やはり今の私にはまだアルベルトを信用することが出来ない。何しろ私は彼の手によって処刑されてしまったのだから。彼にとっては初めての世界であり、私を処刑した記憶など残っていない。けれども私にとっては2度目の世界。 あれだけの仕打ちをされて、信用なんて出来るはずも無かった。 それにカチュア。 彼女は『聖なる巫女』と呼ばれるだけのことはあり、人の心を掴むのがうまかった。私が完全に孤立し、皆から忌み嫌われたのもカチュアの差し金だったのかもしない。 と言う事は、今は私の味方に思われるようなアルベルトもいつ何時態度が豹変するのか分かったものでは無いのだから。「やっぱり、アルベルトに心を許すわけにはいかないわ……」 その時――扉がノックされ、声をかけられた。『クラウディア様、起きていらっしゃいますか?』その声は侍女のマヌエラだった。「ええ、いいわよ」すぐに扉が開かれ、マヌエラが室内に入って来た。そして背後には……。「ク、クラウディア様……」今にも泣きそうなリーシャが立っていた。「陛下から彼女をクラウディア様の元に連れてくるように言われて参りました」「ありがとう、マヌエラ。リーシャを連れて来てくれて」思わず笑みを浮かべてマヌエラにお礼を述べた。「い、いえ。私は陛下の言いつけ通りにしただけですので……。それでは一度下がらせていただきます」「ええ

  • 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版)   第2章 62 指輪 

    「とにかく、今はまだ休んでいろ。何しろ5日間も意識が無かったのだから急に起き上がったりしないほうがいいだろう。それでは俺はもう行くよ。仕事が残っているからな」「あの、陛下」アルベルトが立ち去ろうとしたので、声をかけた。「どうした?」「リーシャはどうしたのでしょう? 目が覚めた時、側にいなかったのですが」「リーシャか……」「はい。あの子は私が国から連れて来た大切なメイドです。何故今ここにいないのですか?」側にいたメイドがリーシャではなく、エバだというのが気になった。「あのメイドは今謹慎処分を受けている」「謹慎処分……? 何故ですか?」「そうか……やはり覚えていないか」アルベルトがためいきをついた。「一体何のことでしょうか?」「いや、リーシャはお前を貶めるように何者かによって催眠暗示をかけられていたのだ」「リーシャが……ですか?」まさか、また身体をのっとられてしまったのだろうか?「そうだ。その顔……何か心当たりがありそうだな?」「いえ、心当たりは特にありません」余計なことは話さないでおこう。「リーシャが証言した。お前にネックレスを外すように提案したのは彼女だそうだな」突然アルベルトの口調が変わった。何故か怒っているように感じる。「はい、そうです。ですが……」しかし、アルベルトは私の言葉を遮った。「何故外したんだ? 肌身離さずつけておくように言っただろう?」「はい、申し訳ございません」 アルベルトはかなり苛立っている。彼の機嫌を損ねるわけにはいかなかったので、素直に謝ることにした。「クラウディア……。この際だから本当のことを言おう。お前は敗戦国の姫だ。この国に一方的に戦争を仕掛けた『レノスト』国の生き残りの王族だ。お前に戦争責任は一切無いが、それでもよく思わない人物が大勢いる。自分だってその事には気付いているのだろう?」「はい……そうです」「この国や、城の者達を信用できない気持ちは分かるが……せめて俺のことは信用してもらえないか?」不意にアルベルトの声の調子が変わった。「え?」驚いてアルベルトを見ると、少し悲し気な顔で私を見ている。「陛下……?」「お前はリーシャから夜寝るときにネックレスは外した方が良いと言われたのだろう?」「何故それを……?」「彼女がそう、証言した。何者によって催眠暗示を掛けられたの

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status